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ChatGPTでブーストした「Glasp」ーー若手二人がシリコンバレーで共同創業した理由

カムスタ!「チームワークのお話」は成長しているスタートアップのチームについて、その成り立ちや工夫、日常の何気ない風景をお伝えするインタビューシリーズです。今回は「Glasp」を手がける中屋敷量貴さんと渡辺圭祐さんにご登場いただきます。

今、シリコンバレーでChatGPTをうまく使ったブラウザ機能拡張が静かにヒットしています。開発したのはGlaspを共同創業した中屋敷量貴さん。1991年に愛媛県で生まれ、2016年に東京大学の修士課程を卒業しその年にベイエリアへ移住。UC Berkeley Extension Programでビジネスを学び、2021年にGlaspを創業した人物です。

GlaspはウェブページやYouTube動画、Kindle本をハイライトして注釈をつけることができるソーシャルハイライトツールです。現在はChromeやSafariの拡張機能として提供されており、自分の学びのライブラリーを作成し、タイムラインでシェアすることができるようになっています。

また、ChatGPTがAPIを公開した直後にYouTube動画の内容を書き出し、ChatGPTで要約してくれるエクステンション「YouTube Summary with ChatGPT」を公開。5月時点で50万ダウンロードを記録するなど、着実に利用するユーザーの幅を広げています。

一方の渡辺圭祐さんは福島県出身の29歳。2017年に千葉大学を卒業後、渡米してコンピューターサイエンスを学びつつ、ベイエリアで学生と企業をマッチングする組織を設立したり、大手IT企業での広告制作、サンフランシスコのスタートアップ企業でのプロダクトマネージャーを経験した人物です。2021年に当時、二度目のスタートアップをしようと準備していた中屋敷さんと共にGlaspを創業します。現在はプロダクト開発以外の事業に関わる全てをこの渡辺さんが担当しているそうです。

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二度目のスタートアップで掴んだチャンス

Glaspを支援するエンジェルとして参加するOpenAIのシェイン・グウさんとのひとコマ

実は中屋敷さんはこのGlaspが一度目のスタートアップではありません。起業家・事業家の一家に生まれ育った彼は、大きな夢を抱いて渡米し、最初のスタートアップをほろ苦い思い出と共に去ることになります。このストーリーについては彼の記した手記に詳しく記載されているので、ぜひGlaspや彼らに興味を持った方はご一読することをおすすめします。

失意のスタートアップから得た経験を元に、彼は渡辺さんと共にGlaspを共同創業します。持ち前のコミュニケーション能力と物怖じしない胆力でどんどんネットワークを広げ、数多くの起業家・事業家たちからエンジェル投資などの支援を受けることになります。

その中のひとり、それが今、ChatGPTで世界を揺るがすことになったOpenAIで日本リードも務めるシェイン・グウさんでした。

サイバーエージェント・キャピタルもGlaspの初期からの支援者ですが、シェイン・グウさんも中屋敷さんの応援団のおひとりなんですよね。

中屋敷:そうです。投資家の1人であるシェイン・グウさんが、ChatGPTの強化学習のリードかつ、日本の責任者としても活躍されています。実はご近所ということもあって家族ぐるみのお付き合いもさせてもらっていて、個人的なテニス友達でもあるんです。あまり詳細はお話できませんが、技術的なアドバイスをいただいたり、特別なイベントに招待していただいたりしています。

OpenAIのGPT-4ローンチイベントに中屋敷さんの姿も見えたようですが

中屋敷:OpenAIのパーティーにはその流れで招待されたんです。というのも、基本的には従業員のみ参加だったんですが、各従業員が1人ゲストを連れて参加できるということで、私も参加させていただきました。他のグループの方々や共同創業者の方々とも話すことができました。

渡辺さんはGlaspの前にやはりシリコンバレーのスタートアップに参加していたそうですが、なかなか難しい挑戦ですよね。中屋敷さんと共同創業というチャレンジを選択した理由はどのようなものだったのですか。

渡辺:中屋敷さんとは、元々IT会社で働いていた際に出会い、以来、学生向けのイベントや、ミートアップ、輪読会など、さまざまなプロジェクトを一緒にやってきており、お互いをよく知っていました。

また、個人的に昔から、本やレストラン、映画など、ログを取ってシェアする習慣が10年以上あったので、プロダクトの相性もとても良いと思いました。実際、中屋敷さんがMVPを作った時から、ずっと使い続けています。面白いプロダクトですし、彼のミッションを追求する姿勢に共感した面も強くあります。

Glasp

ーーこうして二人はシリコンバレーで出会い、完成したのがソーシャルハイライト「Glasp」でした。一度目の起業失敗の過程で中屋敷さんは多くの書籍を読んだことから、知の共有に着想を得、ウェブページやYouTube動画にハイライトや注釈を付けてユーザーと共有し、同じ志を持つ人たちから学ぶことができるサービスに辿り着くことになります。

そしてシリコンバレーの中心で巻き起こるChatGPTというモメンタムを背景にいち早くサービスインテグレートを仕掛け、YouTube動画の内容を手軽に要約してくれる「YouTube Summary with ChatGPT」がヒット。これまでにない反響を得ることになりました。

現在のGlaspは作家や研究者、学生など、読書や知識管理を向上させたい人たちに利用されているそうです。話はそんなGlaspのチームのお話に進みます。

テック世界の中心でスタートアップする理由

Glaspのオフィス

この辺りがシリコンバレーでスタートアップするメリットでもありますよね。すぐにいける。ただ、一方でこれだけオンライン化された世界で、わざわざ異常なまでにコストが高くなった場所を選ぶ理由はどこにあるのですか。

中屋敷:そうですね、それは自分でもずっと考えていることなんです。そもそもGlaspは自分が学んだことやデジタル技術のようなものを残し、後世に役立てていくことを考えてスタートアップしました。そのためには、より多くの人に使ってもらうことが必要です。

中国やインドなどの国々も含め、より多くの人々が利用できる世界を作ろうと思うと、やはりシリコンバレーという場所は最適だと思います。テクノロジーのメッカとしてメディアにも常に注目されており、多様性に富んでいます。また、良いものを作れば、純粋に受け入れてもらえるという文化もあるんです。確かにこの分野での挑戦は困難が伴いますが、ここから何か面白いことが起こっていることを実感していますし、世界に広げることを考えればここが最も効率的だと思います。

実際にそのチャンスを手にしているからこそ説得力もありますね。ところで現在はみなさんどのような働き方なんですか。

中屋敷:サンフランシスコのオフィスにいるのですが、そこ自体はとても小さなオフィスです。個人としては、分散型でどこに行ってもしっかりアウトプットを出せればよいと考えているので、メンバーはどこに行っても仕事ができれば良いと思っています。ただ、やはり一緒にいるとお互いのことをよく知ることができますよね。一緒にオフィスでご飯を作って節約をしたり、夜の帰り道に歩きながら話をしたり。そういうコミュニケーションがとても大切だと思います。

ーー現在、フルタイムで3人、パートタイムで他のプロジェクトにも参加している開発者の方が数名参加しているGlasp。居住地もサンフランシスコを中心に米国や日本、東南アジアなど各国に散らばっているそうです。

渡辺:パートタイムとしては以前に3人の方がそれぞれ3カ月間ぐらい手伝ってくれていました。香港の方が1人、フィリピンの方が1人、そしてチュニジアの方ですね。マーケティング周りの仕事をしてもらい、ニュースレターの作成やLinkedInのリーチを手伝ってもらうなど、全員がパートタイムで働いていました。

ちょうど今、渡辺さんがビザの関係で日本に帰国中とのことですが、特に欧米とアジアでは昼夜逆転ぐらいの時差がありますよね。この辺りはどのように工夫して一緒に働いていますか。

渡辺:スタートアップの初期なのでどうしてもハードワークになりがちなんです。結果的に時間は重なることが多くなりますよ。確かに時差の関係で今朝も初めての4人のチームミーティングがあったんですが、そのうち1人は車の中で参加という状況で、大変でした。ただ、時間的には基本的にオーバーラップするタイミングが多く、割と簡単にコンタクトを取ることができますし、コールもできますよ。

現在の利用してくれているユーザーはどういった国が多いんですか。

中屋敷:基本的には、ユーザーが最も多いのはアメリカです。また、英語圏に限定すると、オーストラリアやイギリス、そしてニュージーランドやインドなども多いです。最近ではChatGPTやYouTubeプラグインのヒットもあって、韓国や日本、そして中国も増えてきています。ただ、英語圏に限定すると、基本的にはアメリカのユーザーが最も多いですね。

多様性があるサービスだと、作る側にもアイデアが必要ですよね。

中屋敷:やはりGlaspのミッションやビジョンに共感してくれる方と一緒に何か作り上げていきたいですね。その方がエンジニアでなくても構いませんし、場所や年齢、性別も問わずに協力してくれる方が理想です。共通の価値観を持った人たちと一緒に主体的に何かを作り上げることができればと思っています。

Glaspはシンプルで便利なクリップツールという印象なのですが、ツールとしてある程度完成してしまうと、次の一手が難しくなりますよね。どのようなプロセスで今後の開発を考えて実行していくのでしょうか。

中屋敷:我々のミッションは他の人の学びへのアクセスをオープンにしていくことで、ロードマップは基本的にこのミッションとビジョンをベースに検討しています。また、コアユーザーの方々と頻繁に連絡を取り合っており、そういった方々からアイデアの着想を得ることもあります。今後はGlasp上に溜まった「その人らしさ」を表す情報と生成系AIの技術を組み合わせることで、その人の分身のようなものをデジタル上に再現できないかと考えています。もちろんまだまだ超えなければならない障壁は多いですが、これが実現できれば、その人の死後にも後世に貢献し続けられる仕組みが作れるのではないかと考えています。

渡辺:Glasp上に溜まったプロファイルやAIでその人らしさを表現すると同時に、その人の思想や意見をより明瞭に発信できるように、パブリケーションのレイヤーを追加できたらと考えています。記事やノートを溜まったハイライトを使用して作成できるようにすると、プロセスが簡易化されます。また、読者も著者のハイライトを参照できるので、その人の思考プロセスがわかり、より深みのある体験を作れると考えています。

また、Glaspはシンプルで汎用性の高いツールなので、幅広いユーザーのニーズに応えるためにはカスタマイズ性が必要になってくると思います。我々で全てのニーズに対応することは現実的でないため、プラグインなどのユーザーによる開発を受け入れる場所を作り、コミュニティ全体で開発・発展していけたらと考えています。

開発するチーム像ってどのようなイメージを持っていますか。

中屋敷:まだ事業としては小さな段階なのでコミュニケーションを大切にして、面白いアイデアを考えたりディスカッションしたりできるぐらいのチーム活動が理想です。将来的には、より大きなプレイヤーになるかもしれませんが、基本的なコミュニケーションスタイルは変えずに維持していきたいです。(GlaspとYouTube要約エクステンションの)反響があったこともあり、参加したいというお声をいただくことも増えてきました。ただ、我々としては、自走してもらえるのが理想なんです。例えば、何かこういうものを作りたいとなったときに、エンジニアの方々が付き添って、ここはこういう感じでとなると、人数が少ないので、ちょっとしんどい。

でも、今いる方々は、エンジニア歴10年以上の結構シニアな方ばかりで、完全に任せられる感じなんです。グロースもコミュニティもコンテンツも全員が持ってるスキルセットを持ち寄って、共感し合いながら、それぞれで何を作るかを考えて動く。現在はお二人の方に参加してもらいながら、私がほぼ全てのUIを作りつつ、圭祐さんにそれ以外をお任せしている感じです。

ありがとうございました。

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