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起業家のビジョンを社会実装する/カムスタ!キーマンのワケ:バックテック・満沢将孝さん

カムスタ!キーマンのワケは、スタートアップの成長を支えるキーマンをご紹介いたします。創業者に注目が集まりがちなスタートアップもチーム戦です。その成長のウラにはかならず「鍵」を握るキーマンが存在しています。そんなスタートアップの縁の下の力持ちをピックアップいたします。

今回は企業で働く人々の健康を改善して生産性向上を支援する「バックテック」の取締役COO(最高執行責任者)、満沢将孝さんに登場していただきます。

2016年創業の同社が主力として展開するのが「ポケットセラピスト」です。

医学的根拠に基づいたヘルスケアSaaSプラットフォームで、企業の成長及び生産性向上を目的に、働く人々の不安や不調を軽減し、全ての人が健康に充実した生活を送れるよう支援をしてくれるサービスです。

満沢さんは新卒で入社した不動産会社で役員を務めたのち、HR Techのスタートアップとして2020年に上場したスタメンの経営陣としても活躍された人物です。昭和に創業した伝統的な不動産会社から創業間もないスタートアップへの転身、さらに上場を経てまた新たな新天地へと向かった満沢さん。

そこにはどのような考え方、ストーリーがあったのでしょうか。

実力を試したかった新卒時代

バックテックの事業、まだ知らない方もいらっしゃると思うので、最初に説明してもらってもいいですか?

満沢:バックテックではポケットセラピストというサービスを主軸に企業の生産性の向上を健康という側面から支援しています。今、企業の中で特に課題が大きくなってきているのがメンタル不調者ですね、ちょうど1カ月ぐらい前の経済紙にも掲載されていましたが高ストレス者比率は過去最悪の割合になっているそうです。
また2015年からストレスチェックが義務化されましたが、どうしてもストレスチェックに引っかからない隠れた高ストレス者がいたり、一方で高ストレス者に対して産業医面談の実施やEAPといった外部相談窓口なども運用したりしていますが、なかなか効果に繋がっていないというのが現状です。
つまり、企業にとって、メンタル不調者への対策は重要ではありつつ、心やメンタル、ストレスという切り口からだとなかなかアプローチできないんです。一方で、高ストレス者と身体愁訴には関連性があり、メンタル不調者の方は身体のどこかしらに悩みや痛みを抱えているので、私たちはポケットセラピストというプロダクトを通じて身体の痛みをきっかけにメンタルの不調まで一緒に伴走支援し、企業全体の生産を改善していきましょう、という事業をしています。


ストレスって定量化が難しいんですよね

満沢:おっしゃる通りストレスだけに関わらず、健康経営の分野はとても数値化しづらく、特に効果の部分はなかなか上手く定量化や言語化できていない企業が多いのが実情です。言葉を選ばずにいうと、言い方次第では何かリッチな福利厚生みたいな感じになってしまいがちなんです。ただ、私たちが特徴的なのは、福谷(直人氏・創業者で代表取締役)が京大の大学院で博士課程をとった経営者ということもあって、解析とか研究がめちゃくちゃ強いんですよ。
サービスをお使いいただいてるユーザー様ににまず、どういう健康状態かをアンケート形式で答えていただいて、ご利用いただいた3カ月後にその結果がどうなったかを解析して、企業の生産性の改善にどれくらい繋がっているかなどを比較する、そういうことをやっています。元々どういう状態で、生産性の損失をお金に換算するとこれくらい改善しましたかとか、身体の不調、うつリスク、睡眠習慣、運動習慣などの具体的な変化を数値化して、契約企業様に提出しているんです。


なるほど、ビフォーアフターの数値のアップで判断するんだ

満沢:主軸はポケットセラピストになるんですけども、さらに企業の健康経営というところの上段にある人的資本経営も支援させていただいているんです。上場企業に対してはコーポレートガバナンス・コードの改訂によってこの人的資本の開示が求められているんですけど、開示する項目がいっぱいあるんですよね。
開示にはストーリーがすごく重要でそういう経営戦略を考えなければいけない。そういったコンサルティングに入って、全社の生産性の可視化や改善するための支援をしているんです。直近でも、上場企業の統合報告書などに我々のサービスをご利用頂いた成果を掲載いただいています。

というバックテックに今年参加した満沢さんの話題に移りますね。結構異色の転職歴というか、これまでのキャリアは全て経営に関わるお仕事をされていましたよね。最初のお仕事は全く違う不動産から

満沢:私は2009年の新卒なんですけど、ちょうどリーマンショックが来たぐらいに就活の時期だったんですね。当時、広告とか、不動産、金融業界あたりで就活をしていたのですが、パッと不動産を見たときに『面白いな』と思ったんです。けど、当時から変にリスクヘッジする癖があって、不動産ってなんかリスク高そうだけど本当に大丈夫なのか?って疑って調べていたんです。


それで最初に入ったのが法人向けの不動産企業

満沢:はい、法人向けの不動産ってつまりオフィスの移転などを取り扱う仕事なのですが、景気が良くても悪くても仕事があるんですよ。例えば景気が悪い時もその企業が撤退したりとか、縮小を余儀なくされたりすると、その時のオフィスはどうするかということになりますよね。景気に左右されない不動産って純粋に面白いなと思って。
あと、そこは歩合の会社だったんですよ。何でも自分の実力で食べていくという経験をしたいなと思って、それで決めちゃいました。自分の実力で評価してもらえるという観点が気に入ったんです。


その会社でも最終的には名古屋支店の役員をされたということなので、バンバン売って成績出して、みたいな感じだったんですか?

満沢:いや、そういうことではないんです(笑。確かに成績自体は並の営業社員と比べると、多少は出ていたかもしれませんが、バンバン成果出していたとかではないですね。自分の力というよりは入社当初からその時の上司や先輩に多くのことを教えてもらっていたので、周りの方に助けられていました。


なかなか社歴の長い企業でどうやって昇進したんですか

満沢:当時で創業30年、社員も200名は超えていたので成績だけでは埋もれていたと思うので、正直運の要素が強いです。何かしらのチャンスには必ず手を挙げる。例えば、ちょっと海外の案件できませんか、みたいな話があったらできるかわからないけどまずはやりますと伝えたり、営業主導の会社の中で、営業から人事にキャリアチェンジし人事主導で色々な企画を進めたりと。そうこうしているといつの間にか役員になったというのが正直なところです。

人生を変えたスカウトメール

そこから今度はスタメンという、今は上場していますが当時はスタートアップです。組織関連の事業なので不動産とも関係ない。どうしてそうなったんですか?

満沢:不動産の時は、どちらかというとベクトルが自分に向いてたんですよね。要は、自分の実力をつける、自分が成長するという感じの実力主義です。ただ、なんかそれってもう、仕事としてどうなんだろうと思い始めたんです。
綺麗事じゃなく、世の中にもっと影響を与える仕事をしたい。要は自分が稼いでなんぼとか自分の会社だけっていうよりは、世の中に良い価値を提供したいと本気で考え始めました。そのときにスタメンと出会い、ベンチャーに飛び込んでみようと思ったのが2018年ですね。


30代前半でまだ若いとはいえ、経営にタッチしていた人ですから色々捨てるものも出てくるわけじゃないですか。転職には相当のリスクがあると思うんですけど、当時のスタメンには元々知り合いで引き抜かれたとかそういうのじゃないんですか?

満沢:まずリスクについては一切感じていなかった。逆にいうと、このままの環境に居続ける方があらゆる面でリスクだと感じていたんですよね。ちなみにスタメンとの出会いは知り合いとかではなく、普通のスカウトです(笑。私が元々採用の責任者とかをやっていた関係で、いろいろ転職サイトなどに登録をしていたんですよね。そしたらたまたまあるスカウトが届いて。


それがスタメンだったと

満沢:スタメンの当時の社長で、私が最も尊敬している経営者の1人である加藤(厚史・創業者)さんからのスカウトでした。スカウトをもらった時は、名古屋本社の会社でなんか伸びそうだなぁ・・・ということは、オフィス移転の需要も絶対にあるなと(笑。その下心で社長に会えないかと思って行ってみたんですよ。それが本当に最初です。


営業じゃないですか(笑

満沢:そうですね(笑。そんな経緯ということもあり、そのタイミングでは転職を全く考えていなかったのですが、当時の創業メンバーに会う中で純粋に凄い人たちだなと感じたのと、その一方でまだ10人ほどの少人数だったこともあり自分が経験してきた営業とかはまだまだ伸びしろがある状況でした。この人たちと背中を預け合ったらいい会社になると思って。それで飛び込みました。


飛び込み営業がいつの間にか転職になった。ただ、こういう経歴の方ってご自身で起業するという選択肢も十分にありそうですけどそれを選ばなかったのはなぜなんですか

満沢:それも確かにありましたね、経験してきた不動産とか採用や人事領域で自分で会社やるという選択肢もあったのですが、自分でやるのはスモールビジネスにしかならないと思ったんですよね。
食べるのには困らないと思ったけど、自分の思考は稼ぐというよりは何かそのときから世の中をどうするかしか考えてなくて、自然に起業の選択肢はなくなりましたね。スタメンでもバックテックでも起業家の近くで日々感じるのですが、起業家って特殊というか少し変じゃないですか。


はい(笑。

満沢:私自身起業家をリスペクトしているからこそ、彼らが実現したいビジョンを翻訳して世の中に実装していくのが好きな性分なんですよね。なので、そういった起業家と会えているのは他の人と比べても幸運かもしれませんね。

一度きりの人生、五稜郭の誓い

ちなみに入ったばかりのスタメンではどういう仕事をされたんですか

満沢:スタートで最初入ったときはもう本当に営業のイチプレイヤーで、その数カ月後には、セールスとマーケティングの執行役員になり、その後は事業全体を統括する取締役となり・・という感じでした。ずっと事業側の役員として売上を伸ばすところをやりつつ、組織規模が一定増えてきたことと採用を加速させる必要性があったため、最後の1年はCHROとしてコーポレート側の取締役となり全社統括、採用を中心とした人事戦略とか、その辺りをやっていました。


そこで得た学びってどういうものがありました

満沢:2018年に入社して、その2年後のコロナ禍の中でIPOを達成するんですけど、その急成長の中で、コロナとか何か不確実なものが起きたときに、組織や事業って少しおかしくなるんるんですよね。特にアクセルを踏むときほど、組織に気をつけないといけないなというのはそこから学びましたね。


日本の場合、スタンダードやグロース(旧マザーズ)への上場は成長への過程として位置付けられているので、これ以降ももっともっと成長できる機会があったと思うんです。そこから転職されるわけなんですがこれは一体どうしてだったんですか

満沢:これはバックテックに転職したあとにお会いした方や採用でお会いする方に、必ずお伝えしているのですが、スタメンはめちゃくちゃいい会社です。なので人生が2回あったら絶対に辞めてないです(笑。
ただ人生1回きりじゃないですか。
ちょうど1年ぐらい前ですね。1人で函館に行ったんですよ。これまでの人生でNo.2やNo.3あたりで動くこともあってか昔から、新撰組の土方歳三が好きで、ちょっと五稜郭に行ってきて。自分の年齢がその時36歳で、本当に心身ともに健康でバリバリ何かをリスクヘッジしながら仕事ができるのが、やっぱり50歳ぐらいまでって感覚があるんです。
もちろんそれ以上働くんですけど、ちょうど今折り返したなと。なんか前半は悪くはないけど、後半はもっと世の中にインパクトを生み出すことに自分のこれまでの経験をフルベットしたいなと思ったんですよね。スタメンに経営陣として携わっているからこそ、その考えが徐々にスタメンの方向性とズレていくのがわかっていたので、週明けに代表に『次の総会で退任させてください』と伝えました。


北海道で決めちゃった

満沢:もちろんそれから取締役とも話をして承認を得て、ですが。


五稜郭での誓いを立ててそこからバックテックに参加するわけですが、そこまではどのような経緯だったんですか

満沢:前職でスタートアップの起業家とよくお会いさせていただくことが多く、これまで色々なことを学ばせて頂いたりしました。そんな中バックテックという会社がシリーズBの調達をしたと、福谷と共通の恩人であるMTGベンチャーズの藤田(豪・代表取締役)さんがFacebookでシェアしてたんですね。
社長は名古屋出身で、本社は京都にあり、他にもオフィスが東京都にあるのはわかったのですが、他は何をやっているのかよくわかりませんでした。次のキャリアというよりは、なんか気になるなと思い、Facebookで直接代表にメッセージを送りました。


驚いたんじゃないですか

満沢:びっくりしてましたね(笑。
ただ、具体的に次のキャリアとして検討を開始したのはスタメンの退任を了承されてからなのでそれからだいぶ先ですね。次のキャリアとしてバックテックも選択肢の1つではありましたが、2つの軸で考えており、1つ目は業界に特化したサービス提供を行う、いわゆるバーティカル系のSaaS。もう1つが健康の領域だったんです。
どちらか迷ったのですが、バーティカルSaaSに関しては、数多くの企業が取り組んでいる中で、業界に対するペインの解像度が高く、あとはそこに向けてどう最短で事業化を進めていくか、だと感じたんですよね。
一方で健康って幅広い分野だからこそ結構難しく、そもそも問いを立てること自体難しいと感じた。今、健康グッズとかヘルスケア系のサービスが増えているんですけど、本当に社会全体が良くなっているのかがずっと懐疑的だったんです。いろんなステークホルダーを巻き込まないといけないし。
その点、バックテックはエビデンスベースで正しいことをやっているし、数多くの医療職の方にパートナーになっていただいている。彼らと一緒に企業の生産性という軸で1人1人の健康課題にアプローチしつつ、医療職以外の方々もパートナーになっていただき社会を良くしたいと思うようになったんです。


まだ参加して日が浅い状態ですが、経営経験としては随分ありますよね。スタートアップに後から参加した経営陣として再現性があるところってどのあたりにありそうですか

満沢:前提として強い組織が強い事業を作るし、事業が強くなるとやっぱり組織が強くなるというこの両輪がとても大事だというのはどのスタートアップにおいても重要だと考えています。あとは数字に強いことはとても重要ですね。
私は事業を伸ばすポジションでバックテックにジョインしたのですが、動きとしてはコーポレートから入りました。どこのスタートアップも同じなんですけど、やっぱり数字がなかなかの状態になっている(笑。
CFOとかでは全くないですが、これまでの経験から会計周りは一通りわかるので、そこに危機感を感じたからこそ数字を正しくして、これぐらいだったらリスクテイクできるっていうところを明確にしました。今の事業規模だとそこまで大きなズレにならないものの私の場合、未来の何十億・何百億円に対して描くストーリーのための材料集めなので、今のズレが結局、先々大きな違いに繋がるからこそ数字の強さは重要だと感じています。

経営陣の候補として参加する場合、入り方も大切ですよね。信頼を得ないといけないわけですし

満沢:バックテックのメンバーにはめちゃくちゃ助けられましたよ。とにかくメンバーとの対話の量を重視しました。(経営陣への転職で)失敗する例って、コンサルテーションみたいな立ち位置で入った場合で、私自身パラシュート人事が嫌いだからこそ、そうならないように気をつけました。
現場への同席もそうだし、自分で何かをやってフィードバックすることもそうです。私自身としては採用選考はもう入社初日から面接にも入ってましたし、各メンバーの意思決定や行動するときに、同じ角度で同じものをみて、違和感があればそれを伝える。そうやって解像度を上げていくことに尽きると思うんですよね。


最後に。これからバックテックとして成長されていくわけですが、どういう方に参画してもらいたいですか?

満沢:1パーセントでも違和感を感じたら採用しない、というのはとても意識をしています。特に、カルチャーは合っていないけどスキルが凄いから採用すると、大体双方にとって良くない結果になりますよね。
またスタートアップに身を置いている自分が言うのも変ですけど、ベンチャーとかスタートアップはいろいろキツいじゃないですか(笑。そういうきつい時に自分が背中を預けられるかどうか、信頼できるかといった、エンゲージメントのところが一番重要だと考えています。
あと、あくまでスキルだけの採用をしないだけであって、やはり自分より優秀な人をいかに採用できるかも重要です。自分のいる今の役割でもより優秀な人がやってくればそちらにやっていただいた方がいいわけです。
採用計画について、強く推進すぎると数ありきの組織になる可能性あるので、あくまで目安にはなりますが年末〜年度末に加えて30名ぐらいの体制にして、あとは事業の進捗に合わせて採用しつつ、今のメンバーが大胆に活躍できる組織にしていきたいと考えています。


ありがとうございました!


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