大学親友と挑戦する「歯科技工DX」のDeltanーーマウスピースからクラウドへ拡大/カムスタ!キーマンのワケ:Deltan山口太樹さん
カムスタ!キーマンのワケは、スタートアップの成長を支えるキーマンをご紹介いたします。創業者に注目が集まりがちなスタートアップもチーム戦です。その成長のウラにはかならず「鍵」を握るキーマンが存在しています。そんなスタートアップの縁の下の力持ちをピックアップしていきます。
歯科医療のDXで注目を集めるスタートアップ、それがDeltanです。
2024年6月の歯科診療報酬改定では、デジタル技術を活用した歯冠修復や光学印象、歯科医師と歯科技工士の連携などの保険適用範囲が拡大・新設され、歯科業界のデジタル化がさらに加速することが予想されています。
このような業界の変化を追い風に、リリース後わずか1年で1,500%以上という急成長を遂げているのが同社が提供する主力サービス「DELTAN ORDER」です。
これは歯科技工指示書やスキャンデータ、口腔内・顔貌写真、CTなど、様々な歯科データをクラウド上で一元管理できるデジタル歯科技工指示書作成・受発注サービスです。
従来は各メーカーのクラウドサービスから個別にスキャンデータをダウンロードする必要がありましたが、DELTAN ORDERを利用することで、すべてのデータを一つのプラットフォーム上で管理できるようになりました。
そうした背景もあり、今年10月に同社は国内でトップティアのVC、グローバル・ブレインをリード投資家とする約5億円の資金調達にも成功しています。
今回のカムスタ!キーマンのワケではこのDeltanでCTOを務める山口太樹さんに登場いただきます。
元ぐるなびのサーバサイドエンジニアとしてAPIや配信プラットフォーム開発に携わり、B2B動画スタートアップを経て、DeltanのCTOとして創業期から参画する山口さん。
休日は子供との公園巡りを楽しむ2児の父でもあります。歯科医療のデジタル化に挑戦し続ける彼に、創業から現在までの軌跡を聞きました。
マウスピース事業から見えた歯科業界のDX課題
「会社がスタートした当初はマウスピース事業が中心でした」。
ここ数年「歯」に関するスタートアップでトレンドになったのがマウスピース矯正です。その見た目や手軽さも手伝って、国内外で数多くのスタートアップが生まれ、Deltanもそのひとつとして挑戦を開始しました。
しかし、山口さんたちはその事業を立ち上げる過程で別の課題に気がつきます。「歯科業界に入っていくと、マウスピースだけでなく、その周辺にある課題が見えてきたんです。特に技工所の現状には大きな課題がありました」と山口さんは語ります。
日本には歯科医院が7万件以上あり、コンビニよりも多いと言われています。その一方で、歯科技工所は2万件程度。その8割が個人事業主という状況です。深刻な人手不足に直面している技工業界において、デジタル化の遅れは大きな課題となっていたのです。
中でも、技工所を訪問してデータの管理が煩雑になっている課題に気づいた山口さん。
「口腔内スキャナーでスキャンしたデータは各メーカーのクラウドに保存されますが、クリニックによって使用するスキャナーは異なります。クリニックによってはこのメーカーを使っているけど、このメーカーは使っていないとか。
クリニックによっては特定のスキャナーでデータを取るけど、仕事を発注するオーダー指示書はメールやFAXで送るとか、いろいろなパターンの組み合わせがある状況でした」と振り返ります。
そこでDeltanはその非効率を解決するべく事業を転換。
現在は歯科医院とつめ物や入れ歯、マウスピースなどを製作する技工所とのコミュニケーションをDXするSaaS開発のほか、ハードウェアの開発販売も手がけるようになったのです。
Deltanは現在、技工所向けのSaaSを開発し、データを一元化できるプラットフォームを提供することで、業務効率化を実現しています。
「現状、ラボ(技工所)から料金をいただくビジネスモデルです。ラボはシステム自体そもそも煩雑で、膨大な人件費がかかっていたので、効率化することにより利用料はペイできる仕組みになっています。創業時の主力事業だったマウスピースは、矯正の中の一手法でしかありません。マウスピースだけでなく、より包括的な歯科医療のデジタル化に挑戦しようと考えました」と山口さんは語ります。
大学時代の親友との二人三脚で築くDX企業
山口さんと代表の井上佳洋さんは近畿大学理工学部の同級生です。大阪出身の2人は、あまり履修者がいない珍しい講義で出会ったそうです。
山口さんは「私が一人で授業を受けていたら、井上さんがポンと肩を叩いてくれて。多分、寂しそうに授業を受けていたので声をかけてくれたんです」と当時を振り返ります。
ただ、二人が事業を開始するのはそれから随分と先のことになります。
大学を卒業後、山口さんはエンジニアとしてのキャリアを歩み始め、井上さんはマーケティング職を経てヤフー、そしてPayPayの立ち上げメンバーとして活躍。年に1〜2回会う程度の関係でしたが、ビジネスアイデアについて語り合う仲は続いていました。
創業の声がかかったのは、いつものようにビジネスのアイデアを話し合う食事会での出来事でした。
「ビジネスのアイデアの相談かと思って。でも、なんとなく、普段とは違う雰囲気を感じていたんですよね」(山口さん)。
井上さんから現在のDeltanの元になるアイデアを聞き、自然な流れで参加を決めたそうです。
2019年10月の創業から6期目を迎えたDeltanは現在、業務委託を含めると30名ほどの組織に成長しています。エンジニアは山口さんを含め全体で6名のチームです。
「セールスのメンバーが一番多いですね。SaaSもそうなのですが、実際にリアルなものも売っているので、しっかりと製品知識のあるセールスパーソンが必要なんです」と山口さんは説明します。
社員の構成は、歯科業界経験者とIT業界出身者が半々。一見すると異なる専門性を持つメンバーが混在する組織ですが、それぞれの強みを活かしています。
山口さんは「メンバーには歯科出身で年齢が高い人も入ってくれているので、そういったところで、ちゃんとした会社なんだな、と安心感を与えられている」と語ります。
現場の声から生まれる歯科DXソリューション
業界内のスタートアップでは、同じようなSaaSを提供する企業が数社ありますが、製品まで手がけている企業はほとんどありません。
というのも、一口に「歯科業界」といっても患者さん向けのクリニックがあったり、歯科技工士のような専業の工房があったりと、業界ならではの特徴があるからです。
「ビジネスモデルがそれぞれ微妙に違ったりしている」(山口さん)ということで、全体的に見れば同じ歯科DXの領域に位置していますが、各企業の特色が出ているのが現状です。
そこでDeltanは、技工所に寄り添ったソリューションを提供しながら、ハードウェアとソフトウェアの両面からデジタル化を支援する独自の立ち位置を確立しているのです。
山口さんは「ニッチな領域に入り込んでいるので、学ばせてもらう姿勢がないと誰からも協力してもらえず、事業が成り立ちません。誠実に現場の声に耳を傾け、一つずつ信頼関係を築いてきたことが、結果として歯科業界のデジタル化を加速させることに繋がっている」と語ります。
創業から6年、Deltanは歯科医療のDXという大きな課題に向き合い続けています。エンジニアリング組織としては小規模ながら、歯科業界の経験者とIT人材が融合したチーム構成で、業界特有の課題に取り組んでいます。
山口さんは「歯科業界では、Deltanの思いに興味関心を持ってくれた人から、少しずつ関係性を築いてきました。今後も誠実さを持って、伝統的な業界におけるDXを推進していきたいです」と今後の意気込みを語りました。
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